2014-09-02 21:48

イギリス式貧困対策は日本でも通用するか


可処分所得平均の半分を下回る世帯(=相対貧困世帯)で暮らす子供の割合を示す「子供の貧困率」について、2012年は16.3%と過去最高を更新した。一人親世帯での貧困率は54.6%で、いずれもOECD諸国中で最悪の水準らしい(ホントかよ)。

この結果を受けて、政府は「貧困対策大綱」を閣議決定したが、東京新聞は9月1日の社説で「当事者らが強く求めていた施策の多くが盛り込まれなかった。せめて貧困率削減の数値目標くらいは示せ」、と厳しく批判した。

「当事者らが強く求めていた多くの施策」の具体的内容は不明だが、数値目標の方は「イギリスが数値目標を掲げて貧困率削減に成功した実績がある」と書かれている。なるほど、成功した前例があるなら参考にするべきだろう。

ただ、当然ながら重要なのは「数値目標」ではなく「取組の中身」だ。東京新聞は数値目標に強い拘りを見せているが、着目すべきはイギリスの数値目標ではなく政策の中身であろう。では、具体的にイギリスはどの様な取組を行ったのか。

以下に内容を確認しつつ、日本がイギリス式貧困対策を模すべきか考察したい。


・始まりは1999年、かなりの成果あり 

1999年、イギリスのブレア首相は貧困撲滅を掲げ、当時約350万人いた貧困世帯(相対貧困世帯)の子供を2005年までに100万人削減する目標を設定、およそ80万人の改善を達成した(ちなみに日本の貧困世帯の子供は平成22年で323万人)。

なお、2005年の目標は通過点に過ぎず、最終的には2020年までに貧困をゼロにする数値目標が設定されている。さすがにゼロにはならないだろうが、ショボイ目標でお茶を濁すよりは、ドデカい目標に突き進んだ方が実績も上がることだろう。


・貧困対策の要は「地域再生」 

貧困撲滅のため、イギリスは「地域再生」を主眼に据えた。貧困地域をリストアップし、人員と予算を集中させる作戦だ。地域再生が掲げられた理由は、イギリスの地域間格差が日本では考えられないほど凄まじいからだ。貧困地域がわんさか存在する。


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2008年に「児童貧困撲滅キャンペーン(Campaign to End Child Poverty)」が公表した統計によると、地域別比較のワースト10は、子供の居る世帯の貧困率が軒並み70%を超える。ちなみに、最低はバーミンガム・レディウッドの81%だ。

しかも、10地域全てで貧困世帯の半数以上が無職である。イギリスにおける貧困撲滅において、貧困地域の根絶(=地域再生)が選ばれたのはそういった背景がある。そして、イギリスは対象とする再生地域に39カ所を選定した。

この時点でイギリス式貧困対策は参考にならない気配が濃厚だ。背景が違いすぎる。


・10年間で20億ポンドを集中投下 

再生地域39カ所を選定したイギリスは、貧困対策費用として各地区5000万ポンド、総額20億ポンド(日本円で3400億円くらい)の予算を集中投下した(10年分)。これは中央政府の予算なので、地方自治体の独自予算も別にあるはずだが金額は不明。

20億ポンドの使途は、多い順に住宅及び付帯設備等4億3000万ポンド(31%)、コミュニティ経費2億4800万ポンド(18%)、教育2億3600万ポンド(17%)、就労支援1億6700万ポンド(12%)、健康1億4800万ポンド(11%)、犯罪対策1億3900万ポンド(10%)。

貧困者向けに住宅を整備したり、犯罪対策に多額の予算を投下することは、日本には馴染まないだろう。日本はすでに住宅設備や環境が整っているし、防犯面では交番もあり治安に問題は無いし、健康では皆保険制度が運用されている。

したがって、日本は就労支援と教育に絞って対策を打てる。イギリスより効率的に予算を集中させられそうだ。ただ、特定の地区に多額の予算を投入することは、横並び意識の強い日本社会に受け入れられるかは微妙な感じだ。たぶん無理だろう。


・目玉政策「コミュニティのためのニューディール(NDC)」 

再生地区を選定し、予算も確保した。では、その予算を誰がどう使ったか。これがイギリス式貧困対策の目玉、「コミュニティのためのニューディール政策(NDC)」である。NDCとは、一言で言えば「中央官僚と地域住民の協議会」だ。

中央政府は大筋の目標を示し、地域住民が政府の方針に沿って具体的な取組を考え実施する。中央官僚はお目付役で、要は地域住民の頑張りに頼る仕組みとなっている。

ちなみに、日本の「特区」とは全く異なる。日本の特区は行政区単位で規模が大きいのに対し、NDCは小規模な「地域」で、例えばロンドンだけでも9つのNDCが設置されていた(意外に思われるかも知れないが、ロンドンの貧困率はかなり高い)。

はたして、同じ事を日本で実施したらどうなるだろう。普通の人はNDCに参加する暇は無いだろうし、暇があっても面倒だから敬遠するのではないか。

必然的に、プロ市民とか弁護士とかマスコミとか共産党員とか、サヨク系の香ばしい人々の寄せ集めになるのではないか。そして、方々で内ゲバを起こしつつも制度を利権・既得権益化させ、さらなる予算や権限を要求する様になるのではないか。


・イギリス式貧困対策は真似しない方がよさそう 

ちょっと無理じゃないかな、というのが第一感。社会的な構造や国民性など、背景や土台がイギリスと日本では違い過ぎる。特に、日本の貧困世帯は局所集中のイギリスと異なり広く薄く分布しているだろうから、根本的な地域再生戦略がマッチしない。

貧困世帯を一カ所に集め、貧困対策特区化して集中支援すれば効果的に思えるが、まあ非現実的な案でしょうなあ。

地域住民が主体的に助け合う仕組みは民主党も掲げていたけど、何も出来ないまま3年が過ぎて退場してしまった。それで良かったのだと思う。結局のところ、自民党が進めている様に、地道な教育支援や就労支援が妥当かつ無難な対策ではなかろうか。




参考資料1:イギリスにおける貧困への視座と対策(山本隆・関西学院大学教授)
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19613703.pdf

参考資料2:英国における子供の貧困問題(Eikoku News Digest) ※日本語です
http://www.news-digest.co.uk/news/news/in-depth/7787-child-poverty.html

東京:子ども貧困大綱 改善の数値目標を示せ
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014090102000174.html
" あまりの中身のなさにがくぜんとする。閣議決定された子どもの貧困対策大綱には、当事者らが強く求めていた施策の多くが盛り込まれなかった。せめて貧困率削減の数値目標くらいは示せ。
 一日の主な栄養源は学校の給食のみ。貧しさから進学をあきらめざるを得ない。そんな子どもたちが少なくない現状だ。"
 平均的な所得の半分(年百二十二万円)を下回る世帯で暮らす子どもの割合である「子どもの貧困率」は二〇一二年、16・3%と過去最高だった。ひとり親世帯での貧困率は54・6%。ともに先進国の中で最悪の水準だ。
 大綱は「子どもの将来が生まれ育った環境で左右されることのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る」とうたう。立派な理念は並ぶが、具体的な施策は既存の事業をまとめただけだ。
 大綱の策定を義務付けた子どもの貧困対策推進法は昨年六月、全会一致で成立した。与野党超えた全党が、喫緊に取り組まなければならない課題という認識を共有したのではなかったのか。
 当事者や有識者が参加する政府の検討会は四回開かれた。当事者らが求めていたのは、貧困率削減の数値目標の設定のほか、ひとり親世帯への児童扶養手当、遺族年金の支給期間の延長や増額、返済の必要のない給付型奨学金の充実などだった。
 政府は、貧困率のデータには、資産などが勘案されておらず、実態を反映していない、などの理由で数値目標の導入を見送った。児童扶養手当や給付型奨学金の拡充は財源確保の問題に加え、「施策の効果をよく検討しなければいけない」として退けた。
 経済的に苦しい家庭の子どもに給食費や学用品代を補助する「就学援助」は、生活保護が引き下げられたことに連動し、一四年度、七十余の自治体が支給対象の所得基準を下げた。子どもの貧困対策に逆行している。
 「私が死んで保険金でももらった方が、子どもはお金の心配をすることなく大学に行ける」。民間支援団体のアンケートに、栃木県に住む四十代シングルマザーはつづった。
" 英国では、一九九九年、当時のブレア首相が、子どもの貧困撲滅を打ち出した。数値目標を掲げて、多くの施策を打った結果、貧困率の削減に成功した。
 日本の政府は熱意に欠ける。政治主導で最優先に取り組むべき課題だ。"




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テーマ:社会保障
ジャンル:政治・経済

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