2014-12-29 11:11

放射能で福島の子供の甲状腺癌が増えた?

先に結論を書いておくと、「分からない」としか言い様が無い。

放射能が福島県の子供に与える影響を調査する甲状腺検査について、4月から始まった2巡目の調査で1巡目に問題の無かった子供から、新たに4人が「甲状腺癌の疑いあり」と診断された。ちなみに、一巡目の検査で甲状腺癌が確定した子供は84人。

このニュースについて、no-risuは別に何とも思わなかった。「ふ~ん、あっそう」としか思わなかった。ところが、ネットを見ると放射脳とおぼしき人々が大喜びしていた。「放射能で甲状腺癌が増えたぞ!」、「オレ達が正しかった、やったぜ!」、と。

馬鹿である。まあ、放射脳共の言いたいことは分かる。事故後1回目の調査で問題の無かった子供に甲状腺癌が発生したのだから、これは原発容認派も否定しようのない明白な放射能の影響であると。放射能のせいでフクシマの子供が癌になったと。

しかし、それはあまりにも短絡的な見方だろう。

まず、1巡目の調査では事故当時18歳以下だった37万人の調査対象とし、84人の甲状腺癌が認められた(疑い含め104人)。この甲状腺癌は放射能と無関係だから、「福島の18歳以下に少なくとも84人が元から甲状腺癌を保有していた」ことになる。

したがって、原発事故があろうとなかろうと、甲状腺癌の子供は一定の確率で新たに発生することが分かる。当然のことながら、2巡目の調査で新たに4人が「甲状腺癌の疑いあり」と診断されたとしても、それが放射能の影響なのかは不明だ。

放射能との因果関係を立証することは困難だが、「新たに4人の疑い」という発生率が従前の発生率を上回っていれば、「従前の発生率<事故後の発生率」となっていれば、甲状腺癌と放射能の影響を議論する価値があるだろう。

では、従前の発生率はどうなのか。これを考えるとき、報道情報だけでは情報量が少なすぎて計算は不可能だ。そもそも、37万人は「調査対象」であって「調査実数」ですらない。実際に調査を受けたのは、37万人中30万人弱だ。

検証するにはもっと詳細な情報が必要で、公表されている情報で最も詳細なのは、調査を担っている「ふくしま国際医療科学センターhttp://fukushima-mimamori.jp/thyroid-examination/result/」の報告だろう。今回は基本的にそのデータを引用する。

ふくしま国際医療科学センターのデータより、1巡目に実施された調査の概要は以下の通りだ。


調査対象人数
367,707人

受検人数(23年・24年・25年調査の合計)
296,026人

受検者の年齢階層内訳(事故発生23年当時)
0~5歳:86,265人
6~10歳:91,786人
11~15歳:84,535人
16~18歳:33,440人


「悪性ないし悪性疑い」の人数
合計:104人/296,026人
0~5歳:0人/86,265人
6~10歳:7人/91,786人
11~15歳:46人/84,535人
16~18歳:51人/33,440人


「悪性ないし悪性疑い」の発生率
合計:104人/296,026人=0.035%=1万人に3.5人
0~5歳:0人/86,265人=0%
6~10歳:7人/91,786人=0.008%=1万人に0.8人
11~15歳:46人/84,535人=0.054%=1万人に5.4人
16~18歳:51人/33,440人=0.153%=1万人に15.3人



これらのデータから、「新たに4人の疑い」という発生率をどう考えるか。正確には、「1年で新たに4人の疑いが発生する率」だ。しかし、公表データでは1年あたりの新規発生率が計算できない。そもそも、3年の分割調査なので単年計算は無理だ。

したがって、仮定と推測を重ねて検証していくしかない。この時点で、「放射能で甲状腺癌が増えた」とする主張に論理的裏付けが無いと分かる。

さて、ここからはかなり苦しい計算が続く。

年齢階層人口から分かる様に、各年齢ごとの人口はおよそ1万5千人~1万8千人程度だ。日経新聞においても、事故後1年間に1万5千人が生まれたと報じられている。つまり、調査対象人口は毎年1万5千人~1万8千人程度が流動する(調査上は加算)。

「悪性ないし悪性疑い」の発生率は1万人に3.5人で、この全体平均値は大きく変わらないと思われるから、調査対象人口が毎年1万5千人~1万8千人程度流動すれば、毎年1万5千人~1万8千人×3.5人≒5.3~6.3人程度の新規発生が見込まれる。

このことから、全体で考えれば「新たに4人」なら見込みを大きく下回る。放射能の影響と言うのなら、放射能のおかげで甲状腺癌が減少したと評価することになる。

もちろん、この結果を持って「放射能で甲状腺癌が増えた」とする反原発派の主張は否定できない。「新たな4人」の年齢階層を考慮に入れねばならない。年齢階層が高ければ放射能の影響は考えにくく、低ければ影響を受けた疑いが強まる。

26日の河北新聞によると、4人の年齢は6,10,15,17歳(いずれも23年当時)とのことだ。年齢階層は高い方に偏っていると考えられることから、放射能の影響は考えにくいと考えられそうだ。ただ、これでもまだ放射能の影響を判断するには足りない。

これは根本的な話だが、「新たな4人」は甲状腺癌の「疑い」であって「確定」ではない。もし甲状腺癌でなかったら、検証するまでもなく放射能の影響は否定される。さらに、2巡目の調査で何人調べて「新たな4人」が見つかったのかも不明だ。

すなわち、新規発生率的には想定の範囲内で、放射能の影響は否定されると推測するのが自然だが、現状では断言できないしそれ以上の評価を下すことは難しい。

要は「分からん」と言うことだ(笑)。確かなことは、「放射能で甲状腺癌が増えた」と決めつける主張は間違っていて、どちらかと言えば放射能の影響は見られないと考えられそう、と言うことだけである。




日経:子供4人、甲状腺がん疑い 原発事故直後「異常なし」
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO81242910U4A221C1000000/
 福島県の子供を対象に東京電力福島第1原発事故による放射線の影響を調べる甲状腺検査で、事故直後の1巡目の検査では「異常なし」とされた子供4人が、4月から始まった2巡目の検査で甲状腺がんの疑いと診断されたことが23日、関係者への取材で分かった。
 25日に福島市で開かれる県の検討委員会で報告される。調査主体の福島県立医大は確定診断を急ぐとともに、事故による放射線の影響かどうか慎重に見極める。
 検査の対象は1巡目が事故当時18歳以下の約37万人で、2巡目は事故後1年間に生まれた子供を加えた約38万5千人。1次検査で超音波を使って甲状腺のしこりの大きさや形状などを調べ、程度の軽い方から「A1」「A2」「B」「C」と判定し、BとCが血液や細胞などを詳しく調べる2次検査を受ける。
 関係者によると、今回判明したがんの疑いの4人は震災当時6~17歳の男女。1巡目の検査で「異常なし」とされていた。4人は今年4月からの2巡目検査を受診し、1次検査で「B」と判定され、2次検査で細胞などを調べた結果「がんの疑い」と診断された。
 また、1巡目で、がんの診断が「確定」した子どもは8月公表時の57人から27人増え84人に、がんの「疑い」は24人(8月時点で46人)になったことも新たに判明した。〔共同〕








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コメント

仕事納めします

今年の更新はこれで終了し、これより帰省いたします。

それではみなさま、良い年末年始をお過ごしください。

  1. 2014-12-29 11:15
  2. URL
  3. no-risu #-
  4. 編集

今年もありがとうございました

no-risuさん、お久しぶりです。
少し仕事と組合活動の両立に失敗して心身を壊していたため、久々のコメントになります。
今年1年は消費税増税から師走の選挙まで変化に富んだ1年で自分も考えるところがありました。
主義主張違えど、来年もno-risuさんをはじめ色々な人と考えを交換できればと思っています。
それでは良い1年になりますよに。
  1. 2014-12-31 12:11
  2. URL
  3. azarash #-
  4. 編集

良いお年を

no-risuさんのエントリーは、私にとっては成る程と納得出来たり、出来なくても心揺すられたりして、なんというか、「琴線に響いた」ものか多かったです。
それがゆえに、コメントつけたくてもまとまらず、断念した事も多かったです(例えば復興と復旧のお話とか…)。
それが自分の今の実力なので、それを受け入れた上で、もう少し高みに乗せたいと思っています。
来年も宜しくお願い致します。
  1. 2014-12-31 19:36
  2. URL
  3. もらもら #Fldqm66o
  4. 編集

To azarashさん

新年あけましておめでとうございます。

組合活動と仕事の両立は大変でしょうね、専従でも厳しそうなのに。
ここ数年、日本社会の変化は目まぐるしいものがあります。おそらく今年もそうなるでしょう。

その変化が少しでも良い方向になればと期待します。
azarashさんにとっても良い一年になりますように。

  1. 2015-01-04 12:47
  2. URL
  3. no-risu #-
  4. 編集

To もらもらさん

新年あけましておめでとうございます。

言葉がまとまらないということは、私も多々感じ悩むところです。根本的な国語力もありますが、主張は出来るだけ簡潔に、かつ理解してもらえるように、さらに言葉不足で揚げ足盗られない様に考えると、そのバランスが難しいんですよね。

全然成長しないブログではありますが、こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。


  1. 2015-01-04 12:51
  2. URL
  3. no-risu #-
  4. 編集

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